人たらし

7th water Lily /くぼきょうへい

dress

高校生の頃から年齢詐称をして水商売をしていた。正真正銘の家出をして、高校は中退。家の目の前に佇む山々をもう見ることはない。なんてことを思うと、自然と苛立ちが湧く。何もないじゃないか。あの場所には。半ばホームレスを2日した頃、歓楽街の隅に疲れ切って蹲っていたところを拾われた。連れて行かれた回転寿司ではラーメンやカレーを食べた。その日から私はお酒を学んだ。色管ごとに破局した末、店を移り変わりしていた。自分の価値はわからないけれど段々と相手にする客層が変わっていった。金持ちになればなるほど人は汚かった。金を持てば持つほど、愛も恋も忘れてしまうんだと知った。私はまだ若いけれど、こいつらのようになるのが人間だとしたらむしろ今信じているようなドラマの一節は幼稚なのだろう。数多くいた「私を自分のモノにしたい」馬鹿から選んで口頭契約をした。週に数時間の無を過ごすだけで十分に暮らせる世界を手に入れた。ネイルも美容院も、ブランド物も、出来るだけ高いものに価値があると思って手に入れた。毎日やることがないから犬を飼った。欲しかったものをたくさん手に入れた。高校に行かなくても、大学に行かなくても、同い年の働いてる馬鹿より馬鹿みたいな生活ができた。なんとなく暇だったから付き合ったり別れたりした。友達と言える人はほとんどいなかったけれど、なんとか言えるだろう友達はみんな忙しかった。働いているらしい。外に出ることはめんどくさくて朝から晩までテレビを見ながらタバコを吸っていた。タバコで収まらない日もあった。肌荒れが目立つ、こんなに酷い顔だったかな、産毛のような髭が生えている。そういえばもう何ヶ月髪を切っていないだろう。なぜブランド物が欲しかったのだろう。犬未だに碌にトイレもできない。汚い部屋だからそろそろ引っ越したいとか言ってみようかな。朝方、喧嘩をするカラスの鳴き声が聞こえて、ここに雀はいないんだと気づいた。何もないじゃないか。この自分には。