人たらし

7th water Lily /くぼきょうへい

8/31

親戚が亡くなった連絡を受ける。膵臓癌だった。俺は多分明日泣くことはないだろう。親戚と言っても、かなりの間会っていなかったし、今までお疲れ様でした。と思うぐらいなんだろう。大人な対応を落ち着いてしている自分が浮かぶ。でも大人になったからそうできる訳ではない。父親や母親、兄弟が死んだら泣きじゃくる気がする。もし結婚して、自分のお嫁さんが死んだらもう生きる意味を無くすんじゃないかと思う。でも多分それは寂しいから泣くんじゃなくて、もっと自分がその人を幸せにしてあげれたんじゃないかと思って泣いてしまうんだろう。泣く理由は寂しいからじゃない。後悔だ。今までたくさん泣いてきた。痛くて泣いた日も、寂しくて泣いた日も、つらくて泣いた日も、もちろんある。けれど。もうそんなことで泣かなくなった。その傷はもう慣れてしまった。唯一まだ子供のように、赤児のように泣き喚いて世界の終わりかと言われるほど癇癪を起こしてしまう時は、後悔している時だけだ。彼女と別れて泣いたのは、俺がもっと幸せにしたかったからだ。目に見えない傷を知っている俺が、それも全部含めて愛したかったからだ。ここにいればもう傷つく必要はないとわかってほしかったからだ。できなかったから泣くんだ。いや、できていたつもりなのに振り返ると不甲斐ないからだ。

明日、叔父は泣くのだろうか。

大切な人が亡くなっても泣かずにいられる人生は、どれだけ愛のある人生なのだろうか。どれだけ後悔せず向き合えたのだろうか。

人生はきっと生きているだけで傷だらで、それでも人を愛したいのは、傷ついた分だけ後悔を知っているからだ。